第8章 激動のパンフェスティバル
行くのは楽しいパンフェスティバル。
けれど、出店する側には様々は課題がある。
例えば金銭面。
参加費に遠征費、機材のレンタル代に材料の仕入れ。
例えば時間。
売り出すパンと価格を決め、製造するロットの調整。
人員の補充に、当日のシミュレーションなど、挙げていけばキリがない。
パン好きの人間が集まる祭典なだけあって、売り上げは期待できるだろうが、そんなものは準備にかかった金額と相殺される。
下手をすれば、赤字だ。
そんなリスクを負ってまで出店する理由のひとつは、知名度を上げるため。
美味しくても知名度が低くて売り上げに悩んでいる小さなパン屋にとっては、絶好のチャンスと言えよう。
「店長って、知名度とか気にするんですね。わたしてっきり、お店を切り盛りできる売り上げがあればいいタイプの人かと思ってました。」
「ええ、そうね。ムギちゃんの言うとおり、オーナーは知名度や売り上げに固執するタイプじゃないわ。ただ今回は、ちょっとした試験のつもりなんでしょうね。」
「はあ……。」
試験。
この世で一番聞きたくないワードである。
とにかく、来週のパンフェスにはムギが想像もできないようなゼフの思慮深い考えがあるってことはよくわかった。
けれど、当のゼフは軽井沢へ出陣せず、フェスに向かうのはサンジとギン。
欠員した二人に代わって、ムギがフルタイム出勤を請け負ったわけだ。
いつか、大人になったら、貯めたお金を使ってパンフェスへ行こう。
普段の節約生活など放り捨てて、ありとあらゆるパンを買おう。
まだ見ぬ未来へ想いを馳せたムギではあったが、しかし、その未来はすぐそこまで迫ってきていた。
まあ、ムギが望んだ形とはだいぶ違ったけれど。