第7章 トラ男とパン女の攻防戦
「いったいどういうつもりなんですか!」
ひとしきりの逃亡劇を終えたムギは、掴んでいたローの腕を離して怒った。
怒られたローはというと、たいして気にした様子もなくしれっとした態度を貫いたまま。
「自分の女の様子が気になっちゃ悪いか?」
「悪くない! 悪くないけどさぁ……!」
ただ、もっと己の顔面偏差値を理解してくれと切に願っているだけ。
おかげで明日は、校内でまたもや有名人になってしまう。
あんな平凡な顔をしておきながらモデル並みの男と付き合っているなんて、いったいどんな手を使ったの?と嫉妬と羨望の眼差しを向けられるのは御免被りたい。
「……テスト、結果が出せてよかったな。」
ぷんすか不満を零すムギに向けられた言葉。
純粋に送られた祝福に、ムギの瞳から鱗が落ちた。
一拍のち、とてつもない後悔が押し寄せる。
心配して来てくれた恋人に対して、なんて嫌な態度を取ってしまったのだろう。
(あぁーー、もう。こういうところが、可愛くないって言われるポイントなんだろうなぁ……。)
散々言われ続けてきた「可愛くねェ」の原因のひとつを自覚し、軽い自己嫌悪に苛まれて肩を落とした。
「なんだ、ちっとも嬉しそうじゃねェな。」
「ん、いや、嬉しいですよ。これも全部、ローのおかげです。」
今さらながら素直で可愛い自分を取り繕うとしたら、眉根を寄せたローに強めのデコピンを打たれる。
「あいたッ、なにすんの!」
「お見通しなんだよ、バーカ。なに余計な気を遣ってやがる。」
余計な気というよりも、人間として必要不可欠な配慮だったと思う。
額をさするムギの顔がそれを語っていたのか、今度は髪をぐしゃぐしゃと撫でてきたローが僅かに口角を上げた。
「そういう可愛くねェところが好きだって言ってんだ。」
「……!」
突然の爆弾投下。
デコピンとは比にならないほどの衝撃が心臓を襲い、息苦しさに「うッ」と苦しげな息を吐く。