第7章 トラ男とパン女の攻防戦
基本的にムギの眠りは深い。
大きな地震が起きても、季節の変わり目に雷鳴が轟いても目を覚ますことはなく、翌朝の話題に置いてけぼりを食らうのはよくある経験。
しかし、そんな一面に反してムギの目覚めは良い。
自分が起きたいと思った時間にアラームをセットしなくても起きられるのは、ムギの数少ない特技のひとつ。
ここ最近では朝の出勤時間が身に染みてしまい、休日であってもそれは変わらない。
就寝が深夜であったにも関わらず、例によって早朝に目を覚ましたムギは、若干の怠さを感じながら身を起こした。
「んー、うぅ……。」
目覚めが良いわりにはしゃっきり覚醒するわけでもないムギは、大きな伸びをしながら頭をわしわし掻いた。
(なんか……、髪の毛サラサラ……。)
掻き混ぜた髪は指に絡まらず、触り心地良く滑っていく。
なんだか美容院に行った帰りみたいだ、なんて呑気に考えていたら、昨夜のご丁寧なブローを思い出した。
「……ッ!!」
芋づる式に昨夜の出来事を思い出し、意識は一気に覚醒する。
ぎょっとして寝室を見回してみてもローの姿はなく、ベッドから床に足をつけた時、がらりとベランダへ続くガラス戸が開いた。
「……起きたのか。」
「びっ…くりしたぁ~。」
てっきりリビングにいるのかと思いきや、なぜにベランダに出ていたのか。
「まだ早いぞ。もう少し寝ていたらどうだ?」
「や、いつもこのくらいの時間に起きてるんで。……で、ベランダでなにをしてたんですか?」
不審な行動の理由を尋ねたら、ギッと鋭く睨まれた。
「おい、そりゃァわざと言ってんのか?」
「え……。あ……、よろしければベッドをどうぞ……?」
当然ながら、ムギの家にはベッドがひとつしかない。
友人が泊まりに来てもセミダブルサイズのベッドはスペース的に問題はなく、一緒に眠っていたから来客用の布団もない。
リビングにはソファーがあるものの、190㎝オーバーのローには少々手狭だろう。
申し訳ないなと思いながらベッドを譲ったら、またもや凄まじい鋭さで睨まれた。