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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第6章 パン好き女子のご家庭事情




「もう一度、言ってみろ。」

そう唸ったローの声は地を這うほど低く、彼を怒らせてしまったのだと今さらになって気がついた。

でも、こればかりは引けない。
確かに言い方は無神経だったかもしれないが、アブサロムの一件が解決した以上、ローと付き合うフリを続ける理由も、ましてや世話焼きの一環で恋人になる必要もないのだから。

なので、無謀にもムギは、ローの逆鱗にもう一度触れた。

「だから、別れましょうって言いました。付き合う意味なんか、まったくないですよね?」

ローがなにを意地になっているのかは知らないが、同情や義理で彼氏になってもらうなんてまっぴらごめんだ。
他人がどんなに羨む恋人でも、そこに愛情がなければ虚しいだけ。

間違ったことはなにも言っていない。
言っていないはずなのに、ローの鋭すぎる眼光がムギを責めるのは、いったいなぜなのだろう。

「……お前は本当に、可愛くねェ女だな。」

「そう思うなら、別れた方がいいでしょ? だいたい、付き合うって言っても、わたしたち…――」

お互い、好きでもなんでもないでしょ?

そう告げたかった言葉は、声にはならなかった。
なぜなら、引っ掴まれるようにローの腕が伸びて、苦しいほどに抱きしめられたから。

「ちょ、ちょっと、離し……、ん、んん……!?」

次いで告げようとした拒絶の言葉も、声にはならなかった。
なぜなら、唇ごと塞がれ、飲み込まれてしまったから。

一度だけ触れたことがある唇が、荒々しくムギの唇を塞ぐ。
だけどそれは、以前のように生易しいものではなく、食らい尽くすような激しいキス。

「ん、く……ッ」

唇に噛みつかれ、驚いて口を開いたら、待ち構えていたかのように、ぬるついたなにかが侵入してきた。
狭い口内いっぱいに押し込まれたそれに歯を立てなかったのは、ほとんど奇跡に近い。

熱くて長いそれはムギの口内を傍若無人に暴き、縮こまった舌を見つけては絡みついた。

「ふ……、んぅ……ッ」

根元から舌先にかけて扱かれ、溢れた唾液が口角から流れ出る。
すべてを奪われるような口づけに、ムギは息の仕方すら忘れて目を回した。



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