第2章 とにかくパンが嫌い
子供の頃からローはドライな性格をしているけれど、それとは反対に面倒見が良い男になってしまった。
一応弁明しておくなら、好きで面倒見が良くなったわけではない。
同居人がどうしようもなくポンコツだっただけだ。
「コラさん、忘れ物はないか。」
「大丈夫、ばっちりだ。」
「弁当は?」
「ちゃんと持ったぞ。……あ、風呂敷だけ持ってきちまった。」
「……。」
セリフだけ聞けば、どこの小学生とお母さんだと思われる内容だが、ローとコラソンの間においてはデフォルトの会話である。
己をドジっ子だと呼ぶコラソンに弁当を持たせ、ついでに箸も持たせ、それでも心配だったから鞄をひったくって中身を確認した。
「ケータイと鍵もないようだが?」
「あッ、リビングに置きっぱなしだったかも!」
「いい加減にしろよ、ったく。」
この些細なドジから青ざめるほどのドジを踏む男が警察官だというのだから、日本の未来はいよいよ危ない。
けれど、そんなコラソンをローは心から敬愛しているから、こうして世話を焼きまくるのだ。
「じゃ、行ってくるな。愛してるぜ、ロー!」
「やめろ、近所で変な噂が立つ。」
「変な噂って?」
「……いいから早く行ってくれ。」
大きなため息を吐いてからコラソンを追い出すと、ようやく自分だけの時間が始まる。
手早く食器を片付けたあと、制服に着替えて家を出た。
コラソンの出勤時間に合わせて起床しているローは早起きで、夜更かしも相まって目の下の隈は色濃くなっていくばかり。
性格上二度寝もできないから、片付けを済ませたあとは早めに家を出るようにしている。
ローは日課として、駅に向かう前にコーヒーを飲む。
いつもの電車まで時間はたっぷりあるから、缶コーヒーではなく、カフェに向かうのがローの行動パターン。
ブラックコーヒーで頭を起こしながら本を読む朝が至福の時だ。
コンビニとは違って早朝からオープンしているカフェは少なく、選り好みはできないので、駅に併設されたチェーン店で一服している。
今日もまたいつもどおりカフェに足を運んだわけだが、ローの日常は不条理な好意によって脆くも崩れ去ってしまった。