第5章 見返りはパン以外で
突然ショッピング袋を押しつけられたローは、当然ながら意味がわからない様子で首を傾げた。
「なんだ、これは。さっきお前が土産屋で買ったもんじゃねェのか?」
「そうですけど、あげます。」
もともとこれは、ローのために購入したもの。
無理やりに渡したそれは抱えるほど大きく、ローは怪訝そうにしながらも中身を袋から取り出してみる。
「おい、これ……。」
「好きですよね? レッサーパンダ。」
袋から姿を現したのは、大きなレッサーパンダのぬいぐるみ。
帰り間際、お土産ショップに駆け込んだムギは売っていたぬいぐるみの中で一番大きなレッサーパンダを購入した。
「タクシー代もチケット代も受け取ってくれないし、せめてものお礼ってことで。」
このレッサーパンダ、実はけっこう値段が張る。
中身は綿でできているくせに、なんて生意気なやつなんだ。
「別に、隠すことじゃないと思いますけどね。レッサーパンダが好きだって。」
最終的にローの機嫌を損ねた理由は、レッサーパンダにあると思った。
あの時、ムギが不用意にも「レッサーパンダが好きなのか?」と聞いたせいで、ローの態度はおかしくなった気がする。
ならば、ぬいぐるみを渡すのは火に油を注ぐ行為だが、それでもローがレッサーパンダを愛しげに見ていたように感じたから。
「いらなかったら、誰かにあげるなり捨てるなりしてください。今日はありがとうございました。成り行きで付き合いましたけど、すごく楽しかったです。……それじゃ。」
身勝手にぬいぐるみを押しつけて、言いたいことを言いまくったムギは、ぺこりと頭を下げて踵を返した。
しかし、そんなムギを今度はローが呼び止めた。
「おい、ムギ。」
「な、なんですか?」
いらないとか言われたらどうしよう。
奮発して買ったぬいぐるみが不要になったら、しばらく落ち込んでしまいそう。
けれども、そんな心配をよそに、ぬいぐるみを抱えたローはムギをしっかり見据えて口を開いた。
「お前の言うとおりだ。どうやら俺は、レッサーパンダが好きらしい。」