第1章 恋して、ヴァンプ
「……」
肩へと顔を寄せながら頷く彼女を視線がとらえた瞬間。
一瞬にして完全に俺の理性とやらは。
どこか遠くの山へでも吹き飛んだ。
「しんっじらんないっっっ!!」
「だって凛ちゃん、いいって」
「あんなブッ飛んだ状態での言動なんて責任もてないわよ!!」
「へぇ、ブッ飛んじゃうくらい気持ちいいんだ?」
「……っっ!!翔琉くん、そこにおすわんなさい」
「ええ?めっちゃここ、砂利なんですけど」
「おすわり」
「………ハイ」
こんな顔する凛ちゃんには、逆らっちゃいけない。
本気で怒ってる、これ。
足はめちゃめちゃ痛いけど。
うん。
怒った凛ちゃんもため息でるくらいにかわいいなぁ。
「かける」
「あ、いや違う、怒った凛ちゃんもかわいいなぁって。あーでも、蕩けた凛ちゃんのが最高にかわいいんだけど」
「……」
あ。
ヤバい。
怒るのわかってるのに。
ついつい口から出る言葉たちを止められないんだ。
たぶんきっとそれは、凛ちゃんのゆでダコみたいに真っ赤になって怒る、かわいい顔が見たいからなのかなぁ。
「大学で血飲むの、禁止っっっ!!」
「ええぇっ?」
死活問題だよ、それっ。
「禁止ったら、禁止っっっ!!」
「凛ちゃーん」
「うるさいっ顔も見たくないっっ」
「喉渇いたらどーすんの、俺」
「知らないっトマトジュースでも飲んでればっ」
「酷い、凛ちゃん」
しかもそろそろ、足まじで痛い。
砂利の上に正座とか、軽く、いやめちゃめちゃ拷問なんだけど。
「凛ちゃん、ごめん許して」
「知らない。あたし未琴とランチの約束してるから」
「ええ?俺は?」
「誰かさんのせいで!!また今日もレバニラ定食決定なんだから!!そこで反省してなさいっっ」
ふい、っと。
大袈裟に方向転換をして。
彼女、凛は、ずんずんと校舎へと歩いていく。
歩く度になびく黒髪が、綺麗だなぁ。
凛が通る度に振り向く男たちを全員殺してやりたいくらいに。
全世界の男たちを全員失明させてやりたいくらいに。
凛に、夢中。
「………凛」