第10章 足音の呼吸
炭治郎を鱗滝さんの元に送り届けて一年経つ
少し前に訪れた時は転がし祭りやってたっけ…要は受け身の練習なのだが、また派手に泥だらけになっていたな…
そんなことを考えながらぼーっと空を眺める
今日は非番で、任務がない日なのだけど…こういう日に限ってやることが見つからないものだ
隊服に付いてる日光遮断機能は丈が短いために機能しないが、非番の時に着る着物はちゃんと手足が隠れるようなデザインになっているので傘さえさせば多少外に出られるようになっている
朝のうちに菓子折を買って、蝶屋敷にいる子たちに差し入れしたし…
鱗滝さんの所へはこの前行ったばかりだし…
稽古だって最近またやったばっかりだ…
要するに、やることがなくて暇なのだ…
「そもそも昼間は身体機能にも制限がかかるし…まぁ昔交わした条約だから仕方はないけど…」
そう呟いて、前にしのぶちゃんから貰った藤色の巾着の中を見る
もちろん薬が入っているのだけど、少々特殊な効力の薬が入っている
夜、日が明ける頃に飲むと次日が暮れる時まで、鬼としての機能を藤の花の毒で激減させるという優れものだ
元々は鬼への拷問用に作られたものらしい…
治癒力、身体能力、血への欲などなど…鬼であるがゆえにつきまとう事柄がほとんど抑えられる
もちろん藤の花を調合して作られているので、薬が効き始めたら多少の痛みが体に走るが…動けないほどではないので程々に生活している
薬が完全に切れるのは深夜になってからなので、本領発揮するには深夜からとなる
この薬を毎日飲むこと。これが数ある条約の一つだ
「…さて、まだまだ日は明るいし…蝶屋敷に戻ってお掃除の手伝いとかしようかな」
そう呟きながら、道すがら偶然目に止まった大きな石から腰を浮かせる
…と、不意に声をかけられた
「依千か」
「誰かと思えば義勇さんだ。…随分久しぶり…だったような…」
一年前に手紙貰って以降何の連絡も言葉も交わしてなかった気がする
他の柱たちとは稽古で嫌でも顔を合わせるけど、義勇さんはいつもそこにはいなかった