第9章 久しい呼吸
それほど裕福な時代ではなかったけど、飢えがない程度にはみんな食べ物を頬張っていた
食べるのももちろんだが、作るのも好きだったのでよく近所の人にも料理を振舞う…ということもしていたっけ
「いただきます」という声が聞こえて、はっと我に帰る。そういえば思い出に浸っている場合じゃなかった
「今日はたまたまこの近辺が見回りの範囲内だったので寄らせてもらったんでした。夜はこれからですから…私は仕事に戻らないと」
「そうだったか。足を運んでくれてありがとう」
「いえいえ…このくらいしかできませんが…また機会があれば寄らせてください」
「いつでも来るといい。炭治郎も喜ぶだろうし…何より、友が息災で会いにきてくれるのはわしも気分がいい」
そう言ってくれる鱗滝さんの言葉に、なんともいえない気持ちに襲われる
ここまで自分を鬼殺隊として信頼してくれている言葉はとても心地がいいものだから…心がほかほかと暖かくなる感じがした
「じゃあね炭治郎。辛いだろうけど皆通る道だから…病気やケガにだけは気をつけて」
「はい!…俺も必ず鬼殺隊になって…禰豆子を人に戻してみせます!」
「…うん。君ならきっとできるよ」
そう言って炭治郎の頭を撫でる
少し前までは、ただの炭売りの少年だったのに
この数ヶ月で体つきもしっかりしてきている
真面目で正直者で、よく頑張ってる…きっと炭治郎なら最終選別もなんとかなるだろう
三度笠を被り直し、壁に立て掛けていた二振りの刀を腰に差し直す
「じゃあ二人とも、また今度会いましょう」
軽く手を振りながら、家を出る