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sweet tooth

第1章 sweet tooth


「阿散井いるかー?たい焼き食わねェか?買って来たばかりだぜ」
「更木隊長!嬉しいんスけど…」

 今はタイミング悪ぅ…
 ピリピリと凄まじい霊圧を感じ恐る恐る振り返ると、朽木隊長が鬼の形相をして更木隊長を睨んでいた。

「…たい焼きだと…!?」



 夕刻を過ぎても六番隊執務室の灯りは消えていなかった。昼間の騒動で仕事が終わらない。机の端には冷めたたい焼きの包みがそのままに残されてある。あの後更木隊長には、朽木隊長の虫の居所が悪いので早々に帰ってもらっていた。

「…隊長ぉ、腹減った……」

 結局おやつを逃した俺は隊長に空腹を訴える。

「飯なら食ってもいいんでしょう?」
「…もう少しで今日の業務分が片付く。そうしたら屋敷で夕飯を食わせてやる」

 書類にペンを走らせながら、朽木隊長は顔も上げず無愛想に答えた。

「朽木家の飯!?まじすか!」
「ああ。たい焼きも焼かせてやろう」

 …ん?
 そこで隊長の言葉に疑問が生じた。たい焼きも甘い物のはず…

「え、だったらこのたい焼きも」
「それは駄目だ」

 俺が机の端の包みに手を伸ばすと、急に強い口調で隊長が制止した。
 ん?意味分かんねえ…朽木家のは良くて、更木隊長のは駄目なのか?

「……お前が余りにも他の者から可愛がられているからだ」

 混乱した俺の顔を見て察知したのか、おもむろに苛立った声で隊長が心中を白状し始めた。

「いくらお前が甘党だからといって、こうも皆が次々に餌付けとは…」

 その説明を聞いて俺は肩すかしをくらった気分になった。
 …なんだ?つまり隊長は嫉妬してただけってことか?
 俺のほうを見ずに独り言のように文句を言う隊長がやけに可愛らしく思えて、自然と笑みがこぼれてきてしまう。

「大丈夫スよ、みんな甘いモンくれてそりゃあ嬉しいですけど、それでどうこうってのは無いですから」

 かたくなに拒否していた理由が分かり、隊長へのいとおしい気持ちがこみ上げてくる。

「だって俺…、俺が好きなのは朽木隊長だけ…だから」

 恥じらいながらもそう告げると、隊長は仕事の手を止め石のように固まってしまった。そのうち頬が上気してきたと思うとプルプルと肩を震わせ始めた。照れているらしい。











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