第2章 美しい嘘つき
軽く一括する言葉に私は息を飲む。
相変わらず天月さんは、誰の目もしっかり見ない。
職業病で私や周りの人に警戒心があるのか、それともその性格ゆえなのか。もしくは別の何かか。
葵は天月を悲しげに見つめた。
「あ、天月葵見てみろ、右のやつが一本取ったぞ。早く俺もやりてえ」
「うん。すごいね」
ちらりと天月さんを見ると興味がないのか、生徒たちを逸れて斜めの方を見ている。
(えー、見る気すらないの? あ、またこっち睨んだ)
視線が鬱陶しいと見てきて、ごめん。と睫毛を伏せる。
「じゃあ次は……天月とリセ」
「はい」
「はあ」
「おっ次は天月か、頑張れよ」
にかっと笑うリオに嫌々立ち上がる天月。
「おい、天月構えないのか」
「ああ、はいはい」
そう言いながら構え始めると、女子生徒たちはこそこそと陰口を言い始める。
「始め!」
先生の掛け声に天月の目の前にいる女の子が踏み出し付きを撃つが、軽々避けていく。次々に攻撃を仕掛けるが余裕綽々と一歩も動かずに、体を捻ったり背を逸らしたりして竹刀を交わしたりしていた。
「……すげー」
何回も竹刀を振っているせいで息切れをし始めた女の子を静かに見据えると、バチンッと小気味良い音が響いた。
呆然としていた先生は、はっとしてから手を上げる。
「天月一本」
……
休み時間、天月さんを庭で見つけた。
彼女はベンチにぐったりと体を預けているので、話しかけようとすれば天月さんの目の前にフェンさんが現れた。木陰に移動し会話を盗み聞きする。
「天月ちゃん、おはよう」
「おはよう、モデアさん」
「もう。モデアさんじゃなくて……ほーら……」
ニコリと微笑んだ笑みは次の言葉で、フェンに微妙な空気を与える。
「……女取っ替え引っ替え野郎」
「あはは。酷いな」
だがフェンは天月の耳元に口を寄せて何かを言ったようで、天月の身体が飛び上がる。
「止めろ気持ち悪い!」
「だめだよ。俺のことちゃんと見なきゃ」
「き、キモッ!」
「ん?」
「……別に」
すぐ様恵理香はフェンから離れて行く。
フェンはそれを肘を突きながら見つめて、不意に私に気づいたようで手招きをする。