第2章 入学式
正直、彼女の顔は整っていると思う。
その証拠に、クラスのやつらも、こうして廊下ですれ違うやつらも、すれ違っては彼女を振り返る。
何となく、不快な感覚が心臓をチリっと焦がす。
わからない、でも何か気に入らない。
でも、隣でふわりと花が咲くみたいに微笑む君を見ると、その胸を焦がす嫌な感じも、春の風に吹かれて飛んでいくような。
こんな感情、知らない。
でも、悪くない。
校門を出て、家までの道すがら、言葉は少なくてもゆったりと流れるこの景色と時間が何故かとても離しがたいもののように思えた。
ゆっくりと歩く小さい彼女の速度に合わせて、こちらもゆっくりと足を動かす。
「ありがとう」なんて、こっち見て笑わないで。
僕が離れがたかったんだよ。
なんか心臓が痛い。
一目惚れなんて全く信じてない。興味もない。
なのに、今日初めて会った彼女にこんな気持ちを抱くなんて。
ホント、僕らしくない。
心ここに在らず。
山口がいなくなったの、気づかなかったし。
ああ、赤い屋根が見える。
もうすぐ家だ。
そういえば、隣に誰か引っ越してきたって聞いた気がする。
何サンだっけ?忘れた。
隣の家に植えられたハナミズキ。
確かそろそろ花が咲く頃だ。
『ふふっ、月島くんとここまで一緒なんてビックリ。私のお家、そこのレンガのお家なの。』
「え?」
え?どういうこと?
頭が追いつかない。
彼女に促されて表札を見ると、確かに【】の文字。
こんな少女漫画みたいなことあるの?
読んだことないけど。
「その隣、僕の家。」
ぽかんと開きそうな口元を隠してそう言うのがやっとだった。
驚いた彼女の顔。
こっちも驚いたよ。
学校も一緒、クラスも一緒。
席が隣で、家まで隣同士だなんて。
あぁ、心の中の僕がニヤリと笑う。
彼女が欲しいと、心が叫んでいる気がする。
家の前で驚いた彼女と少し会話を交わして、「じゃあ、またね月島くん」と彼女が微笑みながら手を振った。
”月島くん”じゃ足りない。
「蛍」
『え?』
「蛍でいいよ。また明日ね、。」
『ふふっ、また明日ね蛍。』
少し驚いた表情の後、ふわりと笑った彼女の顔に目眩がする。
彼女が家に入るのを見送ったあと、彼女の残像に背を向けた。