第8章 緊張を解すには?
side 月島蛍
『ねぇねぇ、蛍、どうしたら緊張って解れると思う?』
「え?」
が唐突にそう質問してきたのは、青葉城西との練習試合を明日に控えた朝の登校時のこと。
の話が唐突に始まったりするのは今に始まったことじゃない。大体なんの前触れもなく、突飛なことを言ったりする。
「なに、何か緊張してるの?」
『んー、私じゃなくてね、えーとー。』
珍しく歯切れが悪い。こういう時は、大体僕に気を使ってる時。
僕の苦手なこととか、嫌いなこととか、そういうのを敏感に察知するは、そういうものの絡む時にはこうして歯切れが悪くなる。それがなりの優しさだと分かっているから、こちらは何とも思わないのに、彼女はそういうことを気にする質らしい。好き嫌いが激しいのは自分でも分かってるし、直そうとも思ってない。でも彼女を困らせたくはない。
「日向のことデショ。」
『うん。』
別に気にしなくていいのに。少し眉尻を下げて笑う。
まぁ、あのチビのことは本当に気に入らないけどね。
『あのね、日向くん凄い緊張してるみたいで。顔色も凄く悪いし、隈も出来てて、脱水も心配だし。』
にいらぬ心配をかけるあのチビにまた腹が立ちつつ、そんなの放っとけばいいのに気にする彼女に、またその優しさを垣間見る。
は優しい。どうやって育ったらこんな純粋培養の優しさが育つのか。ひねくれてるって自覚すらある僕には到底理解出来ないものだ。
「放っとけばいいじゃん。自分でなんとかするデショ。」
『ははっ。蛍はそう言うと思ったー。蛍は緊張とか、しないの?』
「·····別にしない。」
『蛍強い。』
「別に普通デショ。」
『私はね、未だに手のひらに人って3回書いて飲み込んでるよ!』
そう言って、目の前でやって見せた。
こっちを上目遣いで見上げて微笑んだまま、手のひらを口にあててパクリと文字を飲み込んだ。
「っ!」
の、こういう無自覚なところが厄介だ。
本当、どうやって育ってきたの。
は可愛い。普通はそれをある程度自分でも理解して、計算して周りの状況を少なからず利用する。
でも、彼女にはそれが全くない。自分の魅力なんてこれっぽちも分かってない。