第6章 三対三
『いえ、私がやってた訳じゃないんです。幼馴染み2人がバレーをずっとやっていて、そのお手伝いをしてたんです。』
「へぇー、だから詳しいんだね。」
『はい。幼馴染みの力になりたくて、色々勉強して。ここでも役に立てたらいいなって。』
「そっかー。凄く助かるよ。清水1人じゃやっぱり大変そうだったから。俺たちも手伝いはするけど、やっぱり限界はあるし。」
『先輩達にはプレイに集中して欲しいですから、頑張りますね。』
「ありがとー。」
スガ先輩が上手に話題を振ってくれるおかげで、家までの帰り道はあっという間に過ぎてしまった。
甘いものは好きなのかとか、休みの日は何をしているのかとか。
意外にも話題は尽きなくて。スガ先輩の柔らかい雰囲気もあってか、とても楽しく会話してしまった。
すぐ目の前に少し見慣れてきた、自分の家の門がある。
『先輩、お家まで送って貰ってしまって、本当にありがとうございます。』
「本当に大丈夫。凄い楽しかった。いつも一緒に帰れる月島が羨ましいよ。」
『えっ?』
スガ先輩の言葉に少し顔が熱くなる。
お世辞だとしても嬉しい。
「ははっ。ちゃん、ちょっと顔赤くなってる。じゃ、俺も帰るね。ゆっくり休んで。」
『はい、スガ先輩も、ゆっくり休んで下さいね。』
向かい合ったスガ先輩が私の頭をポンポンと撫でる。
東京にいた頃にも、クロちゃんと研磨によく頭を撫でられたっけ。
こちらに引っ越して来てからも、何だかんだ頭をポンポンされる事が多い気がする。
バレー部の人達は身長が高いし、身長の低い私の頭は手の置きやすい位置にあるのだろうか。
「じゃ、またね。」
と、そう言ってスガ先輩は頭を撫でていた手を頬に移動させた。
スガ先輩の手は触れたのか触れないのか分からないくらいの位置をそっと通って降りていった。
『っはい。』
すぐに背を向けて少しずつ遠くなっていくスガ先輩の後ろ姿を見つめながら、何となく熱くなった頬を抑えて、背中が見えなくなるまで見送った。
黄昏時だった茜色を残していた空は、いつの間にか鮮やかなオレンジを消して、藍色に染まろうとしていた。