第6章 三対三
私が、バレーボール部のマネージャーを始めたきっかけは、紛れもなく研磨とクロちゃんだった。
幼い頃、体が弱くて、一緒にバレーボールをやりたくても出来ない私に、手伝ってくれと、手を差し伸べてくれたのはクロちゃんだった。
小さい頃のお手伝いなんて、2人に向かってボールを出したり、飛んでいったボールを一緒に拾いに行ったり。
本当ならなくてもいい私のお手伝いを、一生懸命に探して私にやらせてくれた。
ただ一緒にいられることが楽しくて、2人がバレーボールをする姿が大好きで。試合があれば勝って欲しくて。
ただ、2人の後を追いかけていた私に転機があったのだとしたら、あれはクロちゃんが中学2年生、研磨が中学1年生の時の最後の試合だ。
試合の為に、2人とも沢山練習してきた。
クロちゃんはもちろん、練習嫌いな研磨も頑張っていた。
でも、試合には勝てなかった。
試合が終わった後、震えるクロちゃんのあの背中。
研磨の、ゲームオーバーした時のような、あの苦い顔。
その時に私は思ったんだ。
あぁ、私はこんな思いを2人にして欲しくない。
努力は報われて欲しい。
笑っていて欲しい。
練習することが、試合に勝つ為なのだとしたら勝って欲しい。
楽しむ為なら楽しくあって欲しい。
この時、私は心の中を渦巻く複雑な感情が何なのか測りかねていた。
でも、今ならわかる。
私は、2人のプライドを守りたかった。
それからだった、私がマネージャー業というものを真剣に学びだしたのは。テーピングの巻き方を練習して、試合を観ては分析、分析。
2人の顔を見て体調が優れているのか、寝不足じゃないか、人の顔を見ては体調を見るのが癖になっていった。
バレーをしている2人の体の動きに過敏になった。
2人のどんな小さな異変も、見逃したくなかった。
そんな無理がずっと続く訳がなくて。
無理が祟って倒れた私。こんなことすら出来ないのかと、悔しくて2人の前でボロボロと泣いた。
研磨は、そんな私を抱きしめて頭を撫でた。
クロちゃんは、私を抱き上げて頬を伝う涙を唇で掬った。
こんな情けない私に、2人はただ微笑んで「ありがとう」と言ったのだ。
きっと2人は、私のプライドを守ろうとしてくれていた。