第22章 インターハイ予選 対伊達工業戦
side 東峰 旭
次の相手はやっぱり伊達工業だったとちゃんが知らせてくれた。
伊達工業の強靭な壁に惨敗してから僅か3か月。
どうしても鉄壁の向こう側というものがイメージ出来なくなっていた。
「ブロックが目の前から居なくなって、ネットの向こう側がぱあっと見えるんです。」
輝くような瞳でそう言った日向の言葉を思い出す。
そんな場面、いくらでもあった筈なんだ。
それなのに今は、どうしてもあの鉄壁の向こうの景色が思い出せない。
あの伊達工業の鉄壁の向こうは、どんな景色なのだろうか。
常波との試合の後、次の伊達工業との試合までにはまだ時間がある。
ふと、周りの会話に耳を向けると、こちらを見てヒソヒソと話している声が聞こえる。
「あの烏野の10番見たかよ、速攻凄かったな。」
「めちゃくちゃ飛んでたよなぁ。」
試合の後に、こんなに自分に視線が来ないことがあっただろうか。
自分の見た目のせいで、視線を集めることはわかっている。
それとは別に、烏野のエースであるということもあって試合の後は何となく居心地の悪い思いをすることが多い。
それを今はあまり感じない。
いつもより、自分の肩の力が抜けているのがわかる。
すぐ側で月島達と喋っているちゃんを自然と目が追う。
次の試合で、俺と田中がスパイクを打ちやすくする為に、日向に視線を集めようと、そう言ったちゃん。
彼女が言った通り、会場の空気は、いきなり現れた小さな烏に呑まれているようだった。
こんなところでも、彼女は俺を助けてくれるのかと思う。
バレーボールを諦めた俺の背中を押して、またこのコートに立たせてくれた。皆との絆をまた取り戻させてくれた。
それだけでも十分なのに、俺の事情を知ってか知らずか、こうして伊達工業との試合の前にまでこうして俺を助けてくれている。
彼女のその気遣いに、報いたいと思う。
そして何より、鉄壁の向こう側の景色をもう一度見たい。
手のひらに残るボールの感触、叩きつけたボールの出すあの音、ネットの向こう側の景色。
グッと手を握り締めて思う。
次の試合、絶対に勝つ、ただそれだけを。