第21章 インターハイ予選 対常波戦
タイムアウトを終えて、皆の背中を見送りながら思う。
次の試合の為に、なんて。相手の学校に対してなんて失礼な事を言っているんだろうと。
いつもいつも、この小さな両手が掴めるものはほんの少ししか無くて。
それでも、勝つための手段というものが目の前にあるのなら、私はその目の前の手段を絶対に掴んで離さない。例えそれが、とても小さく不確かなものだったとしても。
烏野のマッチポイント、影山くんのセットアップ。
日向くんにとって助走は翼だ。沢山の助走をとって一際大きく飛び上がった日向くんは、真正面ブロック2枚がつきながらもボールを打ち抜いた。
ボールが、体育館の地面をテンテンと跳ねる。
それは、試合終了を示す合図だった。
明るい照明が照らすこの体育館で一瞬の静寂の後、ザワザワと音を立てて戻ったその喧騒にいつの間にか強ばっていた体の力がフッと抜けた。
あぁ、良かった。インターハイ予選、烏野は1回戦を無事突破した。
嬉しい。嬉しい。
コートから戻ってきた日向くんが、すぐ近くで両の手のひらを握り締めて「勝った」と呟いていた。次もコートに立てると、そう言った日向くんの言葉で、何だか涙が出そうになった。私も、皆が試合をする姿を次も見ていられる。
いつの間にか側にやって来ていた蛍に、おめでとうと声を掛けると頭をポンポンと撫でられた。そのいつもと同じ仕草に、何だかとってもほっとして、また涙が出そうになった。
体育館を出ると、試合が終わった人、試合が近い人で賑わっていた。
行き交う選手達の話題は、やっぱり行われていた試合内容についてのようで。注目を集めていたらしい烏野はやはり体育館を出ただけでチラチラと視線を集めているみたいだ。
「おい、烏野だ。」
「さっきの烏野の10番、本当小さいな。」
「でも見たかよ、最後のアレ。めちゃくちゃ飛んでたぞ。」
そこここで聞こえる同じような噂話に、日向くんの囮の効果は絶大だと胸を撫で下ろした。
この烏野の10番は凄いという空気が、会場を少しでも飲み込めばいい。それだけ、伊達工業の鉄壁を少しでも乱すことが出来るかもしれないのだから。
嬉しそうにニコニコと笑う日向くんと、何だかちょっと怖い笑顔で話している影山くんを見ながら、そんなことを考えていた。