第16章 夕暮れの微熱
小さな頃から、同じような夢を度々見ることがあった。
さながら私は、不思議の国のアリスの世界に迷い込んだ”アリス”。
小さくなった私の体。
お喋りするお花たち。色とりどりの蝶々達。
大きなキノコに、小さな扉。
小さな頃に見たファンタジーの世界に迷い込んだような、そんな夢。
そこには決まって出てくる登場人物がいる。
クロちゃんにそっくりな二足歩行の出来てしまう黒猫さん。
そしてこれまた、研磨にそっくりな三毛猫さん。
私の夢には、いかれた帽子屋さんも、眠りネズミも出てこない。けれど、私はこの2匹の猫さんたちと一緒に、変わらないティーパーティーをいつまでもいつまでも続けるのだ。
その、心地良くて不変なティーパーティーが、私は好きで好きで仕方がなかった。
いつも同じ椅子に座って、変わらない笑顔でそこに座る猫さん達。
いつまでも変わらないで欲しい。
いつまでも終わらないで欲しい。
それなのに
あれ?
今日の夢はいつもと少し違う。
いつもであれば、黒猫さんと三毛猫さんはテーブルを挟んで向かい合って座っていたのに。
同じはずだった私からの猫さん達までの距離が変わっている。
黒猫さんの方が、私までの距離が近い。
不変だったはずのその世界。
いつもと違うその違和感に戸惑う。
縮まったその距離に、どうしたらいいのかわからなくなる。
私が戸惑っていると、また1つの違和感。
遠くから聞こえてくるバサバサという羽音。
どんどんと近づいてくるそれを、一生懸命に目で探す。
そしてふと視界に入ってきた、小さな黒いふわふわのカラスさん。
羽音響かせながら近づいてきた小さなふわふわのカラスは、テーブルの端へと着地した。
ずっと見続けてきたこの3人のティーパーティーの夢に、初めて新しいゲストがやってきたのだ。
このカラスさん、誰かに似ていると思い至って見つめていると、視界がユラユラと揺れ始めた。どうやら目覚めが近いようだ。
猫さん達もカラスさんも不鮮明になってくる。
カラスさんをもう1度見つめてみる。
頭のてっぺんに生えたフワフワで色素の薄い髪、そして黒縁の眼鏡。
そうだ、このカラスは彼に似ているのだ。
私はついにその名前を口に出して呼んでみた。
『…け…い』
名前を呼んですぐに、視界はブラックアウトした。