第14章 ベンチに座るということ
side
ピピピッという鳥の鳴く声と、カーテンの隙間から差し込む朝日の明るさで目が覚めた。
5月ともなれば、日の出の時間も大分早くなってきたようだ。
目覚ましが鳴る時刻より前に目が覚めてしまったので、隣ではまだ潔子先輩が眠っている。
眼鏡をかけていない、相変わらずの潔子先輩の綺麗な顔。
昨日の潔子先輩の話を思い出して、胸がキュッと締め付けられるような感覚と共に、もっと頑張らなくてはという気持ちも沸々と湧き上がってくる。
先輩の話し終えたあとの目を思い出す。
もう、断る余地なんてなかった。迷いの無い、決断した目だった。潔子先輩がそれが最善だと決めたのならそれを信じて私は私の出来ることをしようと思う。
枕元に置いたスマホを手に取ると、起きる時間まであと少し。
潔子先輩を起こさないようにそっとベッドを抜け出して、パジャマから動きやすいTシャツに着替える。
今日は、去年の春高で買ったエースTシャツ。
背中に文字が書いてあるから、ジャージを着てしまうと文字は見えないけど、このTシャツを着ると何だか気合いが入る気がする。
それはきっと、お揃いで持っている梟谷の元気なエース、木兎光太郎を思い出すからだ。
仲間のみならず、相手も観客すらも巻き込んでしまうあの独特の雰囲気。彼は、間違いなく私のバレー生活においてのヒーローだ。
もちろん、研磨もクロちゃんも、私にとってはヒーローだけれども。
私の着替えが終わった頃、目覚ましが鳴って潔子先輩が目を覚ました。
ふっと微笑んだ潔子先輩の顔は、いつもと変わらない綺麗な笑顔。
そのいつも通りに安心して、思わず頬が緩む。
身支度を整えて、潔子先輩の家を後にする。
柔らかい日差しが降り注ぐ。
潔子先輩と歩きながら、平均よりもきっと小さい自分の手のひらを見つめる。
自分のこの両手に出来ることも、収まるものも、ほんの少しだ。
それでも、その大切なものをこの手のひらから少しも零さないように、大事に大事に。
ぎゅっと手のひらを握りしめて、上を見上げる。
私の真上を、大きな翼を広げた黒い烏が羽ばたいていった。