第3章 幼なじみ
まさか家が隣同士だったなんて。
「蛍でいいよ」と、微笑んだ彼を思い出して私の頬も自然と緩む。
部活も一緒で、席も隣で、お家まで隣同士だなんて。
こんな偶然あるのかと驚いてしまう。
まるでベタな少女漫画みたいだ。
ただいま、とお母さんに声を掛けて、お友達出来た?なんて会話をしてから、自分の部屋へと移動する。
部屋の時計を見あげればお昼にはまだ少し早い。
まだ変えたばかりの真新しいスマホをチラリと覗くと、メッセージの新着通知が2件。
―孤爪研磨―
入学、おめでと。
体調は?くずしてない?
―黒尾鉄朗―
今日、入学式だっけか?
オメデトー
文面を見るだけで、浮かぶ顔と声。
きっと私、今間抜けな顔してる。
だって、やっぱりこの二人は安心する。
返信しようと画面をタッチしかけて、ふと指を止める。
電話、とか、してみてもいいだろうか?
東京にいた頃は、クロちゃんの家の隣が研磨の家、研磨の家の隣が私の家だったから電話なんて、したことがない。
だって、ほとんどの時間を三人一緒に過ごしていたのだから。
研磨は、産まれた時から一緒の一つ年上のおにいちゃん。
とってもとっても優しいヒト。
小さな時は、体が弱くて。
部屋で寝込む私の傍にずっと寄り添ってくれた。
「場所がかわるだけで、やること、かわらないし。」
そう言って、ふわりと笑みを零す彼は、私が眠るまで頭を撫でてくれた。暇潰しだと始めたゲームは、すっかり彼の生活の一部となっている。
私が六歳の時に引っ越してきた二つ年上のクロちゃん。
研磨よりも人見知りだったのに、体が弱くて小さくて、虐められることのあった私を、直ぐに見つけて助けに来てくれた。
座り込む私を、少し大きな手でいつも引き上げてくれた。笑わせてくれた。
あの時の小さくても大きな背中と、泣き止むまで手を繋いで頭を撫でてくれた研磨の手を思い出すと、心の中が暖かくなる。
いつ頃からだっただろうか。
気づけば、二人に挟まれて歩くことが、共にいることが当たり前になっていた。小学校も、中学校も、おおきくなってもずっと一緒だと思っていた。こんな風に離れてしまうなんて、思ってなかった。