第13章 GW合宿
一斉に声のした方に視線が移る。
「クロ。」
『クロちゃんっ!』
目を引く長身。切れ長の瞳、ツンツンと逆だった髪。
研磨と同じ赤いジャージを身にまとった、私のもう1人の幼なじみがそこにはいた。
「····ん?·····?」
『っクロちゃん!』
走って行って、大きなクロちゃんに飛びつく。
「うおっ!···おまっ。」
クロちゃんは私を支えて持ち上げると、飛びついた勢いのままクルリと一回転してストンと私を下ろした。
「ちゃん、いきなり飛びついたら危ないっていつも言ってるでしょ。」
『へへっ、ごめんなさーい。』
「まぁ、元気そうで良かったよ。」
『クロちゃんも元気そうで良かったー。』
クロちゃんが私の顔を覗き込んで、頭をグリグリ撫でてくる。
私もお返しとばかりに、近い位置まで下がってきたクロちゃんの頭をワシワシと撫でる。
ワックスなんてついてない、以外とフワフワの髪の毛。
そのトサカみたいな頭は、セットした訳じゃなくただの寝癖だということを私はよく知っている。
『ふわふわ。』
「俺の頭撫でんのはくらいだな。」
『私の特権でしょ?』
「ははっ、そうね。」
試合の時だとか、友達だとか、皆に向ける笑顔とは違う、優しいクロちゃんの顔に、胸がぎゅっと締め付けられる。
こういう顔を見ると、離れがたくなるのに。
「残念だけど、あんまりゆっくりしてらんねーんだわ。監督ら待たせてるから。ごめんな。おら、研磨行くぞ!」
「うん。」
「あー、そういえば。木兎が、お前が宮城に行ったって知って騒いでたぞ。番号教えろってうるせぇから教えてもいいか?」
『ぼっくんが?うん、もちろんいいよ。』
「ん、りょーかい。····んじゃま、練習試合でな。」
『うん。』
「またね、翔陽。」
『またね!』
「またなー!!」
研磨がこちらに向かって手を振っている。
人見知りの研磨が、日向くんにまで挨拶をしていくなんて、日向くんのコミュニケーション能力は本当に凄い。
2人の背中を、寂しい気持ちを押し殺して見送ってからハッと気づく。
『日向くん!ロードワーク中だから戻らないと!』
「あ!!!」