第17章 〜他生〜
それからすぐ、エレベーターの扉が開き
『じゃ、またね。弟を宜しく』と
桜奈の頭をポンポンとなで
しれっとエレベーターを後にした。
撫でられた頭を抑えながら、真っ赤な顔で
あわあわする桜奈は、家康を見た。
(何を囁いたんだ?)と気になりながら
それでも、桜奈との距離が
近すぎたことに、イラついていた。
『あんた、無防備過ぎ。兄貴は手が早いから
油断してると何されるか、わかんないよ』と
信長がモテることを知っていた家康は
無意識に信長を女好きのように貶め
桜奈が警戒するよう仕向けた。
桜奈に対する自分の気持ちを
見透かされたことは
病室前ですれ違った時に感じていた。
信長は、自分を煽り、動揺させ
桜奈への気持ちを更に
暴こうとしたに違いなかった。
でも、それとは別にして桜奈の
初恋の相手が信長かも知れないなら
あんな、態度を取られたら、信長に対する
恋心がさらに燃え上がるかも知れない。
それが気が気ではないのに
それを邪魔する権利も止める権利も
自分にはない。
嫉妬など、できる筋合いでは無いのは
十分に分かっている。
それなのに制御できずに
信長になびいて欲しくなくて
つい、そんな言い方をした自分が
情けなかった。
そんな自分を悟られまいと
さっさとエレベーターを降りて
スタスタと歩き出す家康。
兄弟の心理戦に巻き込まれ、とばっちりを受けた
桜奈は、無防備と言われましても
と言う困った表情をしながら
家康の後を慌てて、追いかけた。