第11章 〜別れ〜
それから、顔を手で覆うと
(ははは・・・俺も相当キテるわ・・・
さっきの夢から、覚めたくなかったって
思ってるなんて、現実逃避もいいとこだな)
夢の中の自分は、涙が出てくるほど
幸せの中にいた。
夢の中の相手は、顔はおぼろげだったが
桜奈に違いないと思った。
(夢までみて、一緒にいたいとか
幸せ感じてるなんて、我ながら呆れるな・・・)
そこまで、自分が桜奈に陶酔して
いると言う事実を突きつけられた気分だった。
桜奈同様、自分が不誠実で
浅ましい人間に思えて、自分で自分が
嫌になって行く。
お互いに想い合っていながら、本心を
偽らざるをえない苦悩。
もし、自分の事だけ考え
素直に自分の想いを告げ
万が一、想いが届き
結ばれたとしても
その瞬間から、誰かを裏切り
傷つけたと言う後ろめたさは
心の片隅にずっと影を落とし続ける。
やがて、その影は些細なすれ違いの度
その濃さを増していくことになる。
それは、誰かに許してもらえないからではない。
自分で自分を許せなくなる故の影。
けれど優しい二人だけに、自分の想いだけを
通そうなどと、そんなことは
考えられるはずもなかった。
小夏に自らの意思でプロポーズした家康も
婚約者の存在を知ってしまった桜奈も
それは、同じだった。
自分と言う人間をこれ以上、嫌いにならない為に
【この想いは、終わりにしなければならない】
くしくも、ドア一枚を隔て
家康と桜奈は、同じ決意の中にいた。