第11章 〜別れ〜
そんな小夏にも自分が
全てを投げ出し、全てを捧げても
いいと思えるくらい好きな人がいた。
結婚するつもりでいた。
けれど、怪我をしてしまった自分では
好きな人の足手まといになる。
そんな自分だけには、死んでもなりたく
なくて、別れを決めた。
相手からは、気にすることはない
俺が必ず支えると、言葉を尽くし
説得され、別れることを拒んでくれたが
小夏は頑として別れたいと
言って譲らなかった。
失意の中、小夏の好きな人は
海外へと旅立って行ったのだった。
生涯でたった一人と思える人との
別れがどれほど苦しい事か
小夏は、身をもって知った。
もし、後悔があるとするなら
好きな人の側に居続ける勇気を
持てなかったことに対してだけ。
別れてから、もう半年以上経つのに
小夏の想いが色褪せることはなく
今でも、その人のことで小夏の心は
いっぱいだった。
その人との想い出だけあれば
こののちの人生に好きな人など
いらない、そう思える
相手だったのだ。
婚約を発表を控え、あの日は先に
内々でと、従兄弟達が食事会を開いてくれた。
皆に祝ってもらい、これ以上ない幸せの
中にいた小夏は、その直後、家康を庇って
怪我をしたのだった。
一方で、そんな仲睦まじい二人が
別れる原因となって
小夏の幸せをめちゃくちゃにした自分。
自分の一生をかけ尽くさなければ
自分を許せそうになかった。
いや、そんなことで許されるなど
思ってもいなかった。
せめて、自分にできること全てで
小夏を、幸せにしたい、そう決心していた家康。
まさか桜奈との出会いで
こんなにも心を揺さぶられるとは
家康自身思ってもみなかった。