第40章 オレに取られるぞ
「はーい着いたぞー。」
山田を抱きしめた罰として、ジャンケンもせずに(した所でどうせオレが負けるだろうが。)チャリアカーを漕ぐ羽目になった。これで許してもらえるなら安いもんだと思ったのも束の間、試合後ということもあり既に足はプルプルと震えていた。
「そうだ、鬼退治するマンガの15巻を高尾に貸すんだ。悪いが花子、オレの部屋から探して持ってきてほしい。」
『えー、何であたしなの?真ちゃんが取りに行けばいいじゃん。』
「うるさい。オレは試合で疲れてるのだよ。早く取りに行け。」
「わりぃな、山田。頼むわ。」
高くつくからね、なんて怒った顔をする山田は、まるで自分の家に帰って来たかのような振る舞いで真ちゃんの家に入って行った。
そんな慣れた姿を見せつけられた胸の奥は、チクリと痛む。
「おーい真ちゃん、もしかしてまだ怒ってんの?」
「あ?何の話だ?」
「それはこっちのセリフ。15巻ならもう借りてるぜ?忘れちゃったのか?」
オレは鞄の中から今朝、真ちゃんに借りたその15巻のマンガを取って見せた。
「忘れてなどいない。」
「はぁ?じゃー山田にウソまでついて、一体何の話だよ?」
こちらを見る気がないのか、真ちゃんはオレに背を向けたままで、仕方なくその背中に話しかける。
「人のオンナに手を出すな。アイツはオレのだ。」
「んだよ、やっぱり怒ってんじゃねぇかよ。」
「怒ってなどいない。忠告だ。」
山田のことなんて何とも想ってねぇし、アイツがバカみたいなことばっか口走るから思わず抱きしめてしまった。とは流石に言えず、オレの口から出たのはおどけた言葉だった。
「ご忠告、どうもありがとうございました。」
怒られるか?
とも思ったが、相変わらずオレに背を向けたままの真ちゃんは怒るどころか微動だにしなかった。
「むしろ、こちらが礼を言う。ありがとう。」
「はぁ?どったの真ちゃんっ!!」
素直に感謝されることなど皆無に等しい真ちゃんの口から、まさかそんな言葉たちが出てくるとは思いもしなくオレの声も上擦る。