第38章 一発、ドーンと
“やっぱり高尾も花子のことが好きなんだろ?”
そんなことを一言でも、この大男に言われてしまえばもう自分の気持ちを誤魔化すことが出来なくなってしまいそうで、オレはこの場から早く離れたいのだ。
山田なんて好みじゃない。
オレの好みはもっと胸が大きくて、美人で、癖のある幼なじみなんて連れていない、そういう女なはずだろうと自分に言い聞かせる。
「高尾くん、」
「はいっ!!」
大男から不意に名前を呼ばれ、背筋が伸びる。どうしたの、高尾なんて笑う山田に、オマエのせいだよ、とはもちろん言えない。
「緑間に伝えて欲しいんだ、“松野”がいるぞ、ってな。」
『ちょ、鉄平さん。』
「きっと花子は自分じゃ言わないだろうからな。オレだって花子が酷い目にあったのを知って、ムカついてるんだ。」
『・・・・・。』
「相手が女じゃなかったら“一発、ドーンと殴ってやりたい”気分だよ。」
そう言うと木吉さんは山田の頭を優しそうに撫で、優しそうな目で笑いかけた。そして足早に、彼はその場を後にした。
「何でもなくねぇだろーが」
おしるこを求め、外の自販機を目指して歩く道中、軽く山田の頭を小突く。まさか話に聞いていた松野先輩がこの会場にいるとは思いもしなかった。
『ごめんごめん。でも本当に大したことないよ』
「ならいいけどよ・・・あのさ、」
『ん?』
「木吉さんの言う酷い目ってなんのこと?」
それまで普通に歩いていた山田が、その場でピタリと足を止めた。
嫌がらせのことかとも思ったが、あの話を聞いたとき、オレは殴りたくなるような気持ちにはならなかった。
もちろん酷い話だとは思った。
が、やはりどこの世界でもこういう類いの嫌がらせは少なからず存在していてる。
そんなどこにでもあるような嫌がらせが理由で、木吉さん程の人が殴りたいと思うだろうか?いや、そんなはずがない。
となれば、他にもっとこいつが傷付く何かがあったんじゃないかと、オレは思ったのだ。
オレの問いに、山田は瞳を揺らす。
あからさまに動揺する様に、それは確信へと変わった。
「オレにも教えてくれないか?」
(「オマエに何があったんだ?」)