第5章 岸優太の憂鬱
「優太ぁ、大丈夫か?」
少し掠れた声が鼓膜を揺らす。
ゆっくりと目を開けると
目の前───触れてしまいそうな
ほど近くに、廉の顔があった。
「ぅわっ!? びびった!」
「もう優太の番やで」
大丈夫そうやな、と
廉は俺の顔を見るなり笑った。
そういえば、頭痛が
いつの間にか引いてる……
「ああ、楽になった。
ごめん、順番ずらしてもらって」
「いいよそんなん。気にせんで」
「岸くん、いける!?」
撮影ブースの方から
そんな声が聞こえた。
「はい! 大丈夫っす!」
これもいつの間にか、
身体がなんだか軽い。
その軽くなった足取りで
俺はブースに入った。
「すいません! もう大丈夫なんで!
宜しくお願いします!」
元気よく声を出し言った。
カメラマンさんもスタイリストさんも
他のスタッフさんも笑顔になってくれた。