第5章 溺愛執事の逆襲
『……はい、せ』
妙に色香を含んだ、その吐息に。
一瞬にして止まる時間。
なに、これ。
なんのご褒美。
どっきり?
ぃや、そんなわけないのは重々承知だ。
だけど軽くパニクるくらいには、たぶんドアの向こうで行われている『行為』、は。
俺の理性を奪っていくにはじゅうぶんだ。
「………っ」
たぶん、そろそろ。
彼女が登り詰める瞬間を狙って、わざとらしく乱暴にドアを開けた。
「………」
皇の、匂いがする。
だんだんと慣れてきた目で部屋を見渡せば。
散乱しているのは彼女の夜着、で。
ベッドの中の彼女は、もしかして。
なんて変態チックな妄想さえ、した。
だけどたぶん。
そんな変態チックな妄想なんかよりもっと、もっと予想をはるかに越える格好で、彼女はベッドに横になっていた。
頭まで被った布団を引き下げ、彼女の頭を撫でる。
無意識に向けた視線の先で。
「………」
彼女がその身に身に付けていたのは、間違いなく俺のシャツ。
ヤバい。
なんで、これ。
皇が寝たフリしてんのも忘れて、今すぐ襲いかかってしまいそうな衝動を抑えて、ため息ひとつ。
頭を撫でてやると、ピクリと反応し、顔を真っ赤に染めるのだ。
必死で寝たフリしてる姿がすごくすごく、かわいくて。
思わずいじわる、したくなる。
彼女に触れていた手を離し、やはりわざとらしくベッドを軋ませれば。
「ハイセっ」
俺が離れていくと思った彼女は、思ったとーり、体を勢い良く起こしたのだ。
「あ、あれ?」
俺に寝たフリが通用するなんて。
まさか思っていたわけじゃないでしょう?
「はい、せ」
「はい、お嬢様。遅くなって申し訳ありません」
「ほんとよ、遅すぎ」
怒ったようにふい、と視線を外す彼女へと。
さらに追い討ち。
「お嬢様、そろそろお聞きしてよろしいですか?」
「……なによ」
「僕のシャツ着て、僕のベッドで。何してらしたんです?」
「………」
一気に羞恥に赤くなる体。
そんなの、電気なんて着けなくたってわかる。