第3章 お嬢様、バイトする
「………」
「………」
家を出てから数分、まだまだ距離はあるものの、見慣れた学校が目視できる。
……のを、車のフロントからいつもならお利口に見てたりもするのだけど。
「いつまでそう、膨れているつもりですか」
「………」
「いったい何がそんなに気に入らないんです?」
「………」
車で登校するのはまぁいいとして。
いつものお抱え運転手が体調崩してお休み中の間、ハイセが代わりに運転手することになったのも、まぁ特に問題ないし。
なんなら堂々とハイセの助手席ゲット出来てラッキー!!くらいなもんで。
あたしだってハイセとのこの距離を楽しみたい。
楽しみたい、けど。
女には時には譲れないものも、あるのだ。
「お嬢様」
「……」
「いい加減、原因だけでも教えて頂けませんか。わけもわからずにそう不機嫌になられては、ご機嫌とりのしようもありません」
ご機嫌とり……。
なんなのその、やたらと上からの子供扱い目線は。
だいたい。
機嫌悪いのはあたしじゃないもん。
「……ハイセ、だもん」
「は?」
「機嫌悪いのは、ハイセじゃない」
朝から不機嫌オーラ全開にしちゃってさ。
夢の中ではあたし、ハイセとすごくラブラブだったのに。
勝手に起こして勝手に不機嫌で。
「責任転嫁もたいがいに……」
はぁーっ。
なんて、ため息混じりに出た言葉なんて聞く耳も持たないわ。
「………する」
「は?」
「あたし、バイトする」
「はぁ?」
いやそれ、主人に対する言葉使いとしてすでに間違ってない?
「あのさ皇」
「ハイセ」
低く、言葉を遮って。
ハイセへと向き直る。
「あなたあたしの執事でしょう?言葉使いに気を付けなさい」
「………」
そう。
あたしはお嬢様、で。
ハイセはあたし専属の、執事。
この関係はいくら恋人だからって変わらないんだから。