第11章 執事、引退
「━━━━━くそっ!!」
頑丈な扉が閉まると同時に、思い切り右腕を扉へと叩きつけた。
こんなに、近くにいるのに。
手を伸ばせば、届く距離にいるのに。
こんなにも、遠い。
頑丈すぎる分厚い扉1枚、あまりにも遠すぎる距離に。
知らずに喉が、鳴いた。
『……ハイセ、お外でゴロゴロ鳴ってるの』
『ああ雷。ではリビングでテレビでも見ましょうか。お嬢様、こんな時間に寝巻きで男の部屋へ来ては行けません、わかりましたね?』
『………だって』
『ほらほら、ウサギさん、そんなにぎゅうぎゅうと潰してしまっては苦しいでしょう?』
『ウサギは、苦しくなんてないわ。生きてないもの』
『人の手に渡れば、命が宿ります。ぬいぐるみだってお嬢様が大事にされる限りは感情を持つものですよ』
『………ごめんなさい』
『お嬢様はほんとに、素直でかわいらしいですね』
『ほんと?皇、かわいい?結婚したい?』
『ええもちろん、お嬢様がもう少し大人になられたら、結婚して頂けますか』
『もちろんよ!!』
『ハイセ、ハイセ見て!』
『100点、頑張りましたねお嬢様』
『ハイセにね、頭撫でてもらいたくて頑張ったのよ』
『それは、光栄ですね』
『ハイセ、大好きよ』
『ええ僕もです、お嬢様』
『じゃぁね、皇。ハイセ、あとは頼んだよ』
『かしこまりました』
『皇ちゃん、いいこでね』
『うん、パパ、ママ。行ってらっしゃい』
『行ってきます、皇』
『………お嬢様、悲しい時は泣いてもよろしいですよ』
『悲しくないわ』
『子供はもっと甘えていんです、お嬢様。お車ももう見えませんから、旦那様も奥様も、見えていません』
『………だから、悲しくなんて』
『外は寒いので、少し触れてもいいですか?』
『え』
『勝手に僕が抱き付いてるだけなので、もう少しこのままで』
『…………ふぇ、ん、っく』
寂しくないわけなんて、ないのに。
感情押し殺して。
泣きもせず、泣くことも、できず。
震える幼い少女の泣ける場所でありたいと、願った。
子供らしく。
甘えられる場所でいられたら、と。
強く強く、願ったのに。
結局、手を離してしまった。
皇。