第1章 【9】願いと流星群 前編
手を引かれ、真ん中の花道を抜け、ステージ中央の階段を上る
一歩一歩歩みを進めるたびに鼓動が加速する
こんなに大きな音を立てては天に聞こえてしまう
また、緊張からかほんの少しの吐き気を催した
「会いたかったぜ藍希」
「今日はよろしくね!」
少々誤解を招きかねない発言を繰り出す楽とにこやかに言葉をかける龍之介に迎えられた
何度も繰り返し見たライブ映像よりもキラキラと輝き、抜群の歌唱と誰をも虜とするダンスを2階席で実際に見て、聞いて、感じたツアーと比にならないくらい圧倒的な存在感を放っている
楽から手を差し出され握手を交わし、続いて龍之介とも交わした直後にマイクを1本、龍之介から受け取った
「は、はい!よろしくお願いします。八乙女さん十さん」
「楽でいい」
私の八乙女さん呼びに制止がかかる
俺も名前で呼んでと龍之介からも言われた
いくらなんでも呼び捨てで呼ぶなんて無理な話だ
「じゃあ、天、楽さん、龍之介さんでお願いします」
「なんで俺たちだけ“さん”付けなんだよ」
「いくら何でも呼び捨てには…」
「天だって同じじゃねーか」
本当だ
自分で言っておいて何が呼び捨てできない、だ
「年齢が近いから。それでいいでしょ?」
天の言葉にコクリと頷く
早く始めようと天の催促によりこの話は打ち切られた
私たちはステージに向かって下弦の月の弧状に並べられた椅子に左から楽、私、天、龍之介の順で座った
さあ、いよいよ、トークショーが始まる