第19章 一樹之陰
『ねぇ、里白。あたしさ、転生することにした。あたしはつまらない日常から抜け出したくて遊び歩いてた。そのつまらない日常はどんなに遊んだって埋まらなかった。それを変えてくれたのが金蝉だった。すごく…短い時間だったけど…幸せだった。転生した金蝉と会って…今度は長い時間を過ごせたらいいな。旅するなんて楽しそうかもね?』
『って…衣月が怪我の具合を見に行ったときに言うんです。菩薩様…なんて言ったんです?』
『俺はなにも言ってねぇよ。大事な一人娘だからな。手放すのは惜しいが…あんな姿を見せられるのも辛いからな。』
菩薩はそう言いつつ…タバコを吸っている。
『タバコ…辞めたんじゃないんですか?』
里白はそんな菩薩を見て言った。
『何となく…吸いたくなってな…アイツを…衣月を身ごもった時…俺は遊び歩いてた。衣月のようにな。衣月の父親は誰か分からなかった…ここでどうするか考えてた。そしたらな?やっと言葉が出てきた金蝉が…〖おばちゃ…しゃみし?〗って話しかけてきたんだ。』
『可愛らしいですね。あの金蝉にもそんな時代があったんですね。』
『まぁな。それで俺は何故か産んでやろうと思ったんだ。結果オーライってとこだろ。』
菩薩はそう言って微笑んだ。その表情はなぜか清々しく、自信に溢れていたような気がした。
数日後…衣月と里白は転生する為に下界に続くゲートの前に観世音菩薩といた。
『お前たちには…辛い思いをさせてしまったな…』
『アンタは悪くないよ。これはアイツらが決めたこと。断ったけど、やっぱりあたしも転生させてくれ…今度は金蝉を支える事ができるほどの知恵が欲しい。棒と穴を繋げるとかそういう意味でも。』
『もう、なに言っちゃってるんですか〜そんなに熱い夜を楽しみたいんですか〜?』
『はい!楽しみたいです!それはもう、濃厚な夜を!!』
2人は下界に下りた。
新しい人生を見つける為に…
『衣月…里白…今、お前らは幸せか?願いは叶ったか?』
下界を見ながら観世音菩薩は、1人呟いた。