第16章 神色自若
「なるほど……居場所を守るためにという訳ですね」
八戒が納得した様子で言った。
「でもさ、おかしくね?三蔵のお師匠さまと衣月のお師匠さまはコイビトドウシだったんだろ?」
悟空が不思議そうに言った。
「確かにそうです。しかし、この寺はそういうことについて寛容ではない。一応、衣月は強姦されて出来た子供という事にしていたようです。仏教は無殺生ですから。」
里白は悲しそうに説明した。
三蔵は不機嫌というより複雑そうな顔をしていた。
その頃、衣月は…
「つら……こんなに苦痛だったっけ…」
三蔵と旅に出る前はこんなの普通だった。
自分を偽り生活すること、偽った自分でいることが。
でも、今はなんだかすごく辛く感じている自分がいた。
「あーもー…こんな時に意味わかんない…」
思い出すのは愛する人の顔…行為中の欲に支配された三蔵法師ではないただの男の顔。
「良くも悪くも守り人の存在するものを引き出す…か…」
昔、先代が言った言葉を呟きながら衣月は巻物の姿にした有天経文を机の上に置くと部屋に備え付けの風呂場に向かい、シャワーを浴びた。
白い肌に浮かぶ紅い痕。
衣月は声を押し殺して泣いた。
なんの涙かは分からない。
今、思えば三蔵法師になんてなろうとしてなったわけじゃない。
そうあるべきなんだと思うしかなかった。
周りがそうあるべきなんだと期待するから。
先代が亡き後に、この寺の最高責任者を命ぜられたのも…自分でやりたくてやったわけじゃない。
周りがそうあるべきなんだと期待するから。
周りの期待どおりに生きてきた…
里白と会った時、話した時…
それから…三蔵達と旅に出た時…
すごく清々しい気持ちだった。
でも、分からない…分からないんだ。
自分がどうしたいか…バカみたい…
偉そうな事、皆に言っておきながら……
自分らしく、生きるって決意したのはどこに行ったんだろ…