第14章 おとぎのくにの 6
サトたちも昨日知ったばかりだと言っていた。
突然そんな話を聞かされて、どれほどショックだっただろう。
2人ともとても疲れた顔をしていた。
もしかしたらほとんど眠れていなかったのかもしれない。
たかだか一晩で受け入れられるような話ではないし、きっとまだ混乱していたと思う。
そんなところに俺たちは押し掛けて、更に傷付けるようなことをしたんだ。
残酷な現実をサト本人に口にさせて。
何も悪くないのに何度も謝らせて。
そのくせ俺は何もしなかった。
何も言えなかった。
傷付けるだけ傷付けてさっさと逃げ出した。
自分の愚かさに吐き気がする。
まだサトのことが好きなのに。
婚約破棄なんてしたくないのにって。
サトの心中を思いやることもせずに、自分のことばかり考えて。
自分ばかりが傷付いた気になって。
自分ばかりが可哀想な気がして。
本当に傷付いているのはサトだ。
何も信じたくないのも、現実を恨みたいのも。
ちょっと考えれば分かることだったのに…
現にサトは、信じられないって。
冗談だと思いたいって言ってた。
それでもサトは誰も責めなかった。
怒りも泣き喚きもしなかった。
ただ何もかもを諦めてしまっていた。
サトはどんな気持ちで自分のことは死んだと思ってくれと言ったのだろう。
どんな気持ちで俺たちの幸せを願ってくれたんだろう。
どんな気持ちで笑顔を作り、俺に別れを告げたのだろう…
ちょっと想像しただけで苦しい。
胸が押し潰されたように痛んで息も出来ない。