第13章 おとぎのくにの 5
灯りを落とした暗い室内は沈黙に包まれていて。
もう何も考えたくないのに、頭の中で勝手にお母さまの言葉が繰り返し再生される。
『サトもカズも男の子…』
『赤ちゃんが望めないのが残念…』
『娘として育てることに…』
『みんなに内緒にしていた…』
私が本当に男なのだとしたら、女として生きてきた今までの人生は一体何だったんだろう。
女ではない。
でも今さら男だとも思えない。
女でも男でもない私は一体なんなんだろう…
これからどうなってしまうんだろう…
ついさっきまであんなに幸せだったのに。
カズが妹になって、合同で結婚式を挙げて。
ショウとジュンと4人で、ずっと幸せに暮らしていけるんだと思っていたのに。
今はもう幸せな未来を想像することなんて出来ない。
目の前が真っ暗で先のことなんか何も見えない。
自分が何者なのか分からない恐怖。
これからどうなるのか分からない恐怖。
怖くて不安で体が勝手に震える。
でもそれはカズも同じで。
私の腕の中でずっと震えてる。
お互い何も口にしなくても分かる。
私たちは同じ気持ちを抱えてるって。
震える手でカズの背中をさすったら、カズはぎゅっとしがみついて来た。
私1人じゃない。
不安を分かち合える人がいる。
カズの存在にかなり救われて。
目が覚めたら全部夢だったならいいのに…と思いながら、目を閉じた。