第2章 嫌われ者の博愛乙女
「……俺は、ヒミちゃんのことが好きだよ」
「それは知っています。愛別ちゃんが私のこと見る時、お目目がハートになってるから」
そんなに分かり易く好意を見せていただろうかと、ヒミちゃんの言葉に気恥ずかしくなる。ヒミちゃんはそんな俺を嬉しそうに眺めて「私にハートマークをくれるのは愛別ちゃんと仁くんくらいです」と何気に爆弾発言をした。
「……ヒミちゃん、仁くんって?」
「仁くんはバラバラになってしまうので包んで一つにしてあげなくちゃいけないお友だちです」
バラバラとは個性のことだろうか。俺以外がヒミちゃんに恋心を抱いている事実には嫉妬してしまうが、けれども自分自身を「皆に嫌われている」と言ってのけるヒミちゃんが確信をもって「ハートマークをくれる」と言える相手を悪し様に言う気は起きなかった。華奢な指をゆるゆると折り、ひぃふぅみぃよとヒミちゃんは数えだす。
「お友だちになってくれた愛別ちゃんと、付き合おうって言ってくれた仁くんを抜いたら、他の皆は私のことが嫌い。破綻者とか、イカレ女とか、クレイジーとか。パパとママも、私の笑顔が不気味で異常者だって」
小鳥のような声でヒミちゃんが笑う、自分自身の凄惨な思い出を。何というべきか分からなくなって、俺はヒミちゃんを抱き締める。不思議そうに小首を傾げてから、何を思ったのか。ヒミちゃんは俺の鼻をがぷりと齧った。
「痛ぇ。ヒミちゃん、今日俺、結構下っ腹を殴られてるから、鼻血啜るのはやめた方が良いよ」
「それなら大丈夫です。私、今日は女の子の日が来てて、元々お腹が痛いので」
「それ何も大丈夫じゃなくない?というか、ヒミちゃん今日、生理?」
「生理だとカァイくないので女の子の日が良いです。……愛別ちゃん、えっちな目してます。変態さんの目です」
ヒミちゃんがすっと足を閉じる。短いスカートから覗く白く柔らかい腿は、俺の情欲を煽るばかりだった。
「……逃げるなら今の内だぞ、ヒミちゃん。この変態に、貪られて嬲られたくなかったら」