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滅びた世界で貪る愛は果実の味がする

第1章 半透明の君


盛りのついた猿のように、という言葉があるけれど、きっと猿より俺達の方が盛っている。今日も、俺は天の助が優しいことを良いことに、たくさんキスをしていた。
天の助は、キスをしながら名前を呼ぶと、すぐに気持ち良くなってしまう。手を繋いだ時も、気持ちよくなってしまう。キスをして、名前を呼んで、手を繋いで。全部で気持ち良くなった天の助は、頭がおかしくなってしまうらしい。赤ちゃんみたいに泣きじゃくりながら、半透明な体を小さく震わせながら、天の助は俺に「食べて」と言う。
「雪彦、ねぇ、食べて。オレ、食べ物なんだよ、ところてんなんだよ。……皆、賞味期限が切れてるからって、オレのことを食べてくれない。お願いだから、雪彦はオレを食べて」
ぬるくて美味しくないなら、今から川に入って冷えてくるから。本当はポン酢で食べてほしいけど、雪彦の好きな甘いタレで食べても良いから。健気に懇願する天の助に、俺は残酷だった。汚い泥まみれの地面に、天の助の体を押し倒す。
びちゃりと地面に倒れた瞬間、柔らかい天の助の手足がぐちゃぐちゃに折れてしまった。もう、天の助は俺から逃げられない。四肢を切断された天の助のお腹に、俺は唇を当て、それから、牙を突き立てた。ぬちゅり、と、天の助の体に牙が入り込み、俺は天の助の皮膚を噛み千切っては飲み込んでいく。江戸川乱歩の芋虫みたいに動けない天の助は、俺に貪られる度に痛みで泣き叫んで、けれど泣きながら笑っていた。もっと食べて、もっと食べて、と、天の助は俺を求める。
「全部食べて、いっぱい食べて……!オレはもう、残されたくない……!痛いけど、嬉しいから……痛いの、いっぱいして……!」
可愛い、可哀想な、天の助。俺なんかに愛されなければ、天の助はもっと大事にされていたかもしれないのに。
俺は天の助を食らう。お腹を噛み千切って、頭を噛み千切って、目玉を噛み千切って、中身を啜る。
右の眼球を舌で抉り出した時は、残った方の目で白目を剥いて、泡と血とゲロを吐いたのに、それでも天の助は「食べて」という懇願をやめなかった。
意識を失うまで、天の助は食べられることを願ったのだ。
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