第2章 赤葦、木兎の夏①
人混みの中でも背が高く、トサカヘッドの木兎さんは目立つ。
「掴まれって」
「うん!」
逞しい身体に捕まって海で遊ぶ2人は、どこか違う世界に行ってしまったようだ。
「帰るぞ!」
猿杙さんが声を張り上げて二人を呼ぶが遠くまでいってしまった二人の耳には届かない。
「随分と遠くまでいっちゃって」
あの二人らしいちゃ、らしいけれど。
「本当に」
後ろから頷く木葉さんは、どこかしら意味深でニヤニヤ顔が止まらない。
「なんです?」
「2人とも、遠くまで行っちゃうな」
「今呼び寄せていますけど?」
「呼んで戻ってくる距離にいるうちはね」
戻ってくるでしょうが。現に2人は謝りながらこちらにやってくる。
「俺ってさ、地味だけどスパイクもレシーブもできるし俺がいないとチーム回んないんだよ」
ニヤニヤ顔が真面目顔に変わる。
「感謝していますよいつも・・」
「分かってるんだけどさぁ!言いたいのはそれじゃないんだよ」
「要点は?」
先輩に対する態度じゃないかもしれないが、回りくどいのは程ほどにしていただきたい。
「俺はチームをよく見ているつもりだ。なぁ赤葦、捕まえられる距離にいるうちに捕まえないと、本当に取返しつかないぞ。心の中で芽生えた5%の恋心もいつか100%になる。その時に後悔するなよ」
肩をポンと叩く木葉さんの言葉に、言い表しようがない感情がグルグルと回った。
変な事を考える暇はないぞ、今から祭りに行く準備をしなければならないのだから・・そう自分に言い聞かせ、木葉さんの言葉を振り払った。
ー続くー