第2章 赤葦、木兎の夏①
“いつ来ると連絡もなく、いつの間にか心に住み着くのが恋だ”とか何とか、どこかの歌詞であった。
「海だ海!」
辛い練習の束の間の休日。
普段からいつも一緒に苦楽を共にしている分、結束力も絆も強いバレー部メンバーは休みも一緒に過ごす事が多い。
“このメンバーは今年が最後だから”という口実のもと、花火大会がある日に海へ行き花火を見る。
夏が終われば、あっという間に季節が廻り先輩方は卒業していく。
「毎年この日に気持ちの区切りをつけるんだ。今この瞬間は、いつもと同じ楽しい日々がまだまだ続くと思って、花火を見て別れた時から徐々に皆とのお別れに向けて準備する」俺が1年の頃3年の先輩が言ってたっけ。
そんな先輩の言葉で当時1年の俺は少しだけ寂しさを感じながらはしゃいだ。
「スイカ割り!」
「そっちじゃねぇって!てか、お前見えてるんだろ?わざと俺狙ってるよな!?」
今年の3年生はセンチメタルとは無縁みたいだけど。
「木兎先輩、相変わらず面白い!」
白い肌にオレンジのビキニが映え、一面に広がった青の景色に太陽が飛び込んできたようだった。
「木兎先輩ね。普段はそんな風に呼ばないだろ」
「うん。光太郎って呼ぶけど今は部活だから」
照れる幼馴染の顔は新鮮だ。
いつもは「京治のバーカ」とか憎まれ口しかたたかない。
「うぉ!!その水着可愛い!俺のため?やっぱり?ヘイヘイヘーイ!俺様最高に嬉しい!」
目隠しを取ってはしゃぐ木兎さんは感情の赴くままに生きるタイプだ。本当にわかりやすい。そんな木兎さんが彼氏なのだから2人の付き合いは部内で公認だ。
俺が幼馴染にマネージャーにならないか、と勧誘して木兎さんに会わせたのだから2人の仲をセッティングしたのは俺のようなものだけど。
「木兎!やっぱてめぇ見えてたんじゃねーか!」
遠くで聞こえるメンバーの笑い声。体育館でも海でも笑顔の仲間はそこにいて、季節は移ろいでもこのまま変わる事なんてないじゃないかという気にさせる。