第5章 東峰旭
“9月23日のあなたの予定は・・”
朝晩の冷え込みと秋の訪れを感じつつ、毛布にくるまり携帯画面をチェックする。
「大地と菅と、飲み会だったか・・」
楽しみにしていた予定すら携帯の通知に助けられる自分に苦笑いだ。
熱いシャワーを頭からかぶり、今日の予定だけに集中する。今日は仕事終わりに飲み会で明日からは・・。
心に影ができるのをシャンプーで必死に洗い流した。
店員の食器の片づける音と、威勢の良い掛け声に迎えられテーブル奥には見知った顔が並んでいた。
「おせーぞ旭」
「ゴメン、ごめん」
それぞれ28歳になり、それなりに仕事をしてきた。
大地は2歳年下の嫁さんを貰って長野で暮らしている。
今日は久しぶりに故郷に帰る・・というのでこの3人で集まった。近況報告から始まり、のろけ話に昔の事、バレーの話・・。笑う事で必死に明日の事を誤魔化そうとしている自分がいた。
「そろそろさ、お前も幸せになってもいいべ?」
会話が途切れ、響く菅の一言。気まずさを誤魔化すように大地が日本酒を飲み干した。
「十分幸せだよ」
言った表情を読み取られないように、お手拭きで顔を拭いた。
「旦那も子供もいるんだろう?」
大地の顔から心配をかけているのがわかる。
“お前はへなちょこだからな”高校時代からそう言って励ましてくれた。笑顔で言わない所が、より俺のしている事は重いこと、許されない事だと言われているようで不安になる。
「まぁ、今はな」
そう、今は旦那も子供も彼女にはいるがこの先は分からないじゃないか。
もしかしたら俺と一緒になる準備をしてくれているかもしれないじゃないか・・。
そいう言いたい気持ちは押し殺して、
「心配かけてすまないと思ってる。どうにかするから次会う時までは」
そう言うのが精一杯だった。