第4章 天童覚
外の寒さに曇った窓。
思わず指をのばして線を書く。
「覚、何してるの?」
温かいココアを持ってきた彼女は談話室のソファーにふわりと腰を掛ける。カーテンを引き、窓に書かれた自分の想いを慌てて閉じた。
「もうすぐここともお別れだね」
男子寮に甘いココアの香りを漂わせながら、とても寂しそうに彼女は呟く。
「マネだからお前は特別に遊びに来てるけどネ」
「マネっていうより、覚の彼女だからね。傍にいたいよ」
可愛い事いうじゃないの…。そう思い自然と唇を重ねていた。部活も引退して互いの関係を一歩進めるチャンス。
「部屋、おいでヨ」
強く握った手と自然と口にでた言葉に恥じらいながらも彼女は頷く。
「コップ洗ってから行くから先に行ってて?」
二度目のキスは彼女からだった。
「水取ってくるヨ」
数えきれないキスの後、喉が渇いたという彼女のために談話室近くの冷蔵庫へと向かう。目に入る少し開いたカーテン。その隙間から自分の素直な気持ちが溢れていそうで、慌ててカーテンに手をかける。
“こちらこそな!”
“大学でも続けろ”
“寂しくなります”
“歌は無理ですが、ブロックは天童さん見習います”
意図せず指がなぞった
“みんな、ありがとう”
の周りに書かれた数々の返事。
時間が経ち文字が流れて読めない文字もあったけれど、外の景色が覗けるほど文字で窓は埋められていた。
「私よりそっちの方が大切かな?」
笑いながら背後から抱き付く彼女の問いには答えなかった。
「私はこっちに書こうかな」
背中に大きく書かれた
“スキ”
の文字を震える背中で受け止めた。
ー終わりー