第10章 しろくろ *後編*
街道への送り道。
「久しぶりに愉快な時を過ごさせてもらった」
「光栄です。何のお構いもしませんでしたけど」
「いや…収穫はそこそこに、な」
「…………」
(一応、信玄さまを太郎さんと呼んだけれど、やっぱりバレたか)
冷静に考えれば、光秀さんに嘘が通じるわけがない。
余計な墓穴は掘らないように沈黙を貫いていると、光秀さんがニヤリと笑っている。
「佐助殿は、やはり嘘が吐けんな」
「…嘘かどうかはともかく、無表情なのに、よく分かりますね」
「まぁな」
そうして無事に街道まで出たところで、光秀さんが振り返った。
「今宵のこと、信長さまに報告する」
「…………」
「ここに虎は『いなかった』とな」
「…!」
「次はないぞ?」
そう言うと光秀さんは満足そうにニヤリと笑って、街道を北へ歩き出した。
――本日の信玄さま――
隠れ家とは言え……何でここには撒き菱しかないんだ。おやつが無いじゃないか。