【B-PROJECT】あなたの瞳に永遠を誓います......
第55章 To cherish
「その傷、深かったよね......」
ある日、事務作業をしている私の元に増長さんがやってきた。指摘された右手の人差し指には切り傷がある。ずっと絆創膏を貼っていたけど、少し前にかさぶたになったところだ。
「不器用だから紙で切ったんです」
「気をつけないとダメだよ?みょうじさんが痛い思いをするのは嫌だからね」
本当によく見てる。その証拠に増長さんは、この傷ができてすぐ声をかけてくれた。この怪我は私より彼の方が気にしていると思う。その証拠に、今だって複雑な顔をしている。
「心配してくれてありがとうございます。でも、ただのかすり傷ですから」
「心配するのは当たり前だよ。女の子なんだから傷になっても困るだろうし」
問い詰める理由は、きっと怪我のことだけじゃないはずだ。以前より私が増長さんについて回るようになったこと。振り向きざまに抱きしめられるから、確実にばれていると思う。他にも私は龍さんや明謙くんといる時間が増えた。
「今日ってオフですよね?」
パソコンのキーボードに指を置いたまま聞くけど、どうしてここに居るんだろう。
「そうだよ。働く姿を見ててもいいかな?」
増長さんを見た私はぽかんとしているだろう。
「だめです!」
何としてでも帰ってもらわないと。でも、その思いはお見通しのようだ。
「大丈夫だよ。許可は取ってあるから」
「ええっ......」
申し訳ないけど、あからさまに嫌な顔をしていたと思う。許可なんて誰が出したんだろう?
「そんなに、嫌?」
いつもよりトーンの低い声。子犬の様な表情でこちらを見てくる姿に、異常な程の罪悪感が芽生えてくる。
「ごめんなさい、嫌とかじゃなくて」
胸が苦しくなって慌てて両手を前で振った。やっぱり、アイドルはすごい。
「それなら良いよね。お詫びが欲しいな」
でも、立ち直りが早いような気がする。気のせいだよね?好きな人を疑ったらだめだよね。
「お菓子食べますか?常備してます!」
差し出した右手の人差し指に、突然口付けられた。
それだけで心臓がうるさいのに、増長さんの香りが近づいて耳に息がかかる。お昼休みなので人はまばらだけど、その距離は近い。
「みょうじさんがいい。帰ったら食べさせてくれる?」
こちらを見下ろす笑みに疑惑は確信に変わった。すでに増長さんのペースだ。
