第13章 破面編(前編)
「ギン?…あぁ、アイツか。それなら制御室に居るんじゃない?」
「制御室?」
「回廊制御室。虚夜城の回廊は移動させられるんだよ。そんなのも知らないの?本当に藍染のお気に入り〜?」
「お気に入りかどうかは知らないわよ。その制御室まで連れてってくれる?」
「いいよ。」
くるりと踵を返し歩き始めたアンテノールの後を追い掛ける。彼はここに棲む者の中でもお喋りなのか、聞いた事には大概答えてくれた。藍染がいつ頃からここに現れたのか、破面や虚の食事は人間の魂魄以外にも有るのか、虚夜城の外には何があるのか、興味は尽きない。
「別に人間の魂魄を食べなくても生きていけるよ。虚圏には動物もいるし蟲も植物もある。虚を喰っても良い。別に人間を食べなくても良いんだよね。」
「じゃあ何故人間を襲うの…?」
彼の動きはピタリと止まった。地雷だったか、そう思ってももう遅い。アンテノールは振り返り瞳を細めると進んだ道を戻るように近付いてくる。
「人間だって好きで共食いしないじゃん。」
「……!」
「味のしない枯れた果物より肉汁滴る美味しい肉を食べたいだろ。それと何が違うワケ?ま、ただ狩りを楽しむだけの奴もいるけどさ。本能だよ。獲物を狩るのも喰うのも。霊圧が高いお姉さんの魂魄はこの世の何より美味いんだろうねぇ?」
手が出ないほど長い袖がゆっくり持ち上げられ彼女の胸元をトンと叩く。挑発するように笑う彼を静かに見下ろしゆうりは息を吐くなり黒い頭髪に掌を乗せてくしゃりと撫でた。撫でられた当の本人はその行動に目を丸める。
「そうね。獣が獲物を狩るのが本能なら仲間を守ろすとするのもまた動物の本能よ。貴方、ちょっとギンに似てるわね。」
「はぁ?どこがあんな狐男に似てるっていうのさ。」
アンテノールは頭に乗せられた掌を払い距離を取り直しつつ不満気な眼差しを彼女へ向ける。するとゆうりは払われた手を下ろし悪びれ無く笑う。
「意地悪するのが好きそうな所。」
「何それ、ムカつく。全身穴だらけにしてあげようか。」
「それは困るわね。それより、ギンの所まで案内してくれる?」
「図太い女…話しかけなきゃ良かったよ。」