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【黒執事】翡翠の少年【BL】

第8章 朝


 目が覚めた。とても嫌な夢を見た。どんな夢かは覚えていない。忘れてしまった。
 だが俺は吐き気を催す何かを感じ、少し背筋がぞっとした。

――ところでここは何処だろう。

 俺はソファの中で瞼をこすりながらあくびをした。
「う……むぅ……」
 隣の男のちょっとした声で、一瞬で状況を把握した。
 ここはイギリスのウェストン校。俺はここに来て? クリケットして? で、ここに来たと。
 隣の男――ハーマン・グリーンヒルの寝顔は何処か愛らしい。自然と笑みが零れ、俺は彼の頭を少し撫でていた。
『ハッ……お、俺はまた……!』完全に無意識だった。
 こんな自分が恥ずかしくなる。ああ! 何処か穴があったら入りたい。埋まりたい。男同士なんだ、こんな感情あるわけない! 好きになるわけないじゃないか。……変な奴だとか、思われたくはない。

「む、う…………どうした……?」
『ふぁ?!?!』
 グリーンヒルが起き上がり、更に心臓の鼓動が跳ね上がる。例えるなら、足を生やした心臓が口から勝手に出て行って一人歩きしてもおかしくないほどだ。
「む? レーベ。この毛布は……お前が?」
『ひぇえ、ぅ、ごごごごめんなさいごめんなさい! そ、そういうつもりじゃなくって! ふぇ……!』
 グリーンヒルの言葉が耳をすり抜けて頭に入らず、俺はその場で顔を押さえた。

――彼は俺を軽蔑するかもしれない
――ホモ野郎だって思うかもしれない
――いやホモじゃないけど俺は
――下手したらこの学校から追い出されるかも!!!
――そんなの……あんまりだ……

「ああ、昨日掃除しようとしたらつい、寝てしまってな。すまないな」
 グリーンヒルがパニックになっている俺の頭を優しく撫でた。一人歩きしていた心臓が左胸を突き破って元の定位置に戻るが、鼓動が尋常ではないほど早い。
「……おこる、ないの…?」
「何故怒る必要がある? 寧ろ感謝しているんだ。お前のお陰で俺は風邪をひかずに済んだ」
 優しく撫でてくれるその大きな手が、堪らなく嬉しい。俺はそっと俯き、口を開いた。
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