第10章 光秀の思惑
信長は、湯浴みの途中で逆上せて倒れたをアヤを抱き抱え、天主へ通じる廊下を歩いていた。
その向こうから、歩いてくる人影。
「信長様」
その影が信長に近づき頭を下げる。
「光秀か」
「はっ、ご報告したい儀がございまして、天主へ参ったのですが」
チラッと抱き抱えられたアヤに目をやる。
「アヤはどうかしましたか?」
光秀は、ニヤリとしながら聞く。
「湯浴みをし過ぎて逆上せただけだ」
信長もしれっと答える。
「ククッあまり、アヤを虐めるのも如何なものかと」
「ふんっ、貴様にだけは言われとう無いわ。して、貴様の用は何だ」
「これは、失礼を。話は少し長くなりますので、アヤが落ち着いた頃また、伺いたく思います」
軽くお辞儀をして光秀が去ろうとすると、
「時に光秀、貴様の勧めた酒に酔ってアヤが足を挫いた。内容によっては貴様もただでは済まさんが」
低く通る声が廊下に響く。
「あのお酒、気に入っていただけましたか?昨夜のアヤは一味違ったでしょう?」
意味深に光秀が囁く。
「貴様、何を飲ませた?」
「何も、ただのお酒です。ですが、飲めない者が飲むと一種の催淫剤の様な作用を引き起こすそうですが」
「なるほど」
信長は抱き抱えたをアヤ見ながら納得したように頷いた。
「まぁ良い。今回は貴様のその計らいに免じて咎めは無しだ。以後は気をつけよ」
「はっ、後ほど残りのお酒を持ってまた伺わせて頂きます」
頭を下げながら、光秀がニヤリと笑う。
信長はそれには答えず、背を向けて天主へと戻って行った。