第9章 爪痕
「んっ......はっ...ん」
ちゃぷん、ちゃぷん、と湯水が音を立てて騒ぐ。
「はっ...うんっ...信長様っ」
「アヤ...くっ締まるな」
身体の上下が早まると共に、水音もバシャンと激しくなっていく。
「んっ....もう.....いっ...んん」
ビクッと身体が跳ねるように仰け反り、それを信長様が力強く抱き抱え、その後に、信長様も自身の熱を私の中に放った。
「はぁ......はぁ....信長様のばかぁ。こんな所で...はぁ、こんな事」
信長様を睨み見る。
「貴様といると、初めてばかりだな」
私を抱きしめたまま信長様が呟く。
「うそっ!初めてなわけ.....ん」
反論しようとすると、いつも口づけで黙らされる。私が何も言えなくなるの知ってて。ずるい。
「貴様だけだ」
「えっ?」
「口づけたくなるのも、抱きしめたくなるのも、場所も、時も顧みず抱きたくなるのも、貴様だけだ」
「っ...........」
「アヤ、俺だけを見ろ」
力強い眼に射抜かれる。私はこの眼に逆らえない。
「私は、信長様しか見えてません。私にはあなたしかいないのに」
信長様の胸に手を巻きつけて抱きつく。
広くて逞しい胸元に顔を寄せると、信長様の身体のあちらこちらに引っ掻かれたあとが見えた。
「信長様、この沢山の引っ掻き傷、どうしたんですか?」
「これか?これは、酔っ払ったメス猫に昨夜引っ掻かれただけだ」
何でもないと言った顔で信長様が言う。
「えっ?メス猫って........もしかして、私ですかっ?」
よく見ると、胸だけでなく、腕や背中の所々に引っ掻かれた傷がある。
私、酔っ払って一体何をしたの?
足を捻った記憶は戻ったけど、その他の記憶は全然思い出せない。
「まだ、思い出さんのか」
いたずらな顔が近づいて耳元で囁く。
「昨夜の貴様は、凄かったぞ」
凄かったって何が?
考えようとしたけど、お湯の中で逆上せて、私はそのまま気を失ってしまった。
私一体、何をしたの?