第29章 一本
天主に向かう廊下を歩いていると、背後から、分かりやすい気配と甘い香りがして来た。
そんな相手はただ一人
「えいっ!」
愛らしい声で手にした何かを振り上げながら、俺に攻撃を仕掛けて来た。
もちろん、そんな攻撃にやられる俺ではない。ひょいっと避けると、
「わっ!急に避けないで下さい!」
「きゃー」と言いながら、勢いよくその相手は廊下へと転びそうになっている。
俺は笑いを堪えながら、その相手の腰に手を回して抱き寄せ、転ぶのを回避した。
腕の中に閉じ込めて、その愛おしい顔を覗くと、痛みを覚悟した顔からホッとした顔へと変化して、俺を残念そうに睨みつけた。
「もうっ、またダメでした」
心底悔しそうに呟くこの女は、俺の最愛の女、アヤだ。
そのアヤに俺は今、狙われている。