君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第24章 tempestoso…
全ての準備を済ませ、店の入口に暖簾をかける。
店の前にはオープンを聞き付けたのか、数人の客が並んでいて…
「い、いらっしゃい…ませ…」
俺は緊張しながらも、初めての客を出迎えた。
その中には、開店準備期間中に親しくなった漁師のおっちゃんの顔もあって、内心ホッとしたのも束の間…
挨拶する余裕もなく、次から次へと入って来るオーダーにてんてこ舞いになり…
全てのオーダーを捌き切った頃には、キッチンとホールとの行き来でヘトヘトで…
「店長?」
声をかけられても返事をする気力すらなくて…
「店長、オーナーから電話です」
目の前に電話を差し出されて漸く我に返った。
つか、そもそも自分が“店長”と呼ばれることが、どうしても慣れないんだよな…
「もしもし? あ、雅紀さん?」
雅紀さんはどうにも俺のことが心配らしく、日に何度か電話をくれる。
勿論、電話が出来ない時はメールになったりもするんだけど…
「どう、忙しかった?」
「うーん…、そうでもない…かな…」
本当は、休憩もろくに取れないくらい、目の回る忙しさだった。
けど、雅紀さんに余計な心配をかけたくなくて、俺は平気なフリをして嘘をつく。
どうせ後々バレんのに…(笑)
そして雅紀さんも、
「そっか…。軌道に乗るまでは仕方ないかもね?」
俺の嘘に乗っかってくれる。
相手が潤さんだったら、こうは行かないんだろうけど…
あれこれ嫌味言われて、ついでに一喝されて終わり。
そう考えると、つくづくオーナーが雅紀さんで良かったと思う。
「今日は疲れただろうから、適当に切り上げて、早く休めよ?」
「うん、分かってる」
「あ、後で良いから日報だけFAXしといてくれるか?」
PCとか使えば早くて楽なんだろうけど、残念なことに俺も雅紀さんも超アナログ人間だから、仕方ないよな(笑)
俺は本店にFAXを送る約束をしてから、雅紀さんとの電話を切った。