君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第23章 passionato…
店のチョイスは上田に任せた。
上田は顔が広いし、昔は相当なワルだったと本人は言っていたが、それなりに人望も厚い。
上田に任せておけば、皆が納得する店を選んで来ると思った。
ところが、だ…
上田から「予約済み」と送られてきたメールに添付されていたのは、オープンしたら行こうと約束していた、商店街のあの店のホームページだった。
てっきり上田の馴染みの店になると思っていた俺は、最初こそ驚きはしたものの、実際俺も気になっていたこともあってOKを出すことにした。
そして親睦会当日…
終業時間が迫って来るにつれ、ソワソワし始める社員達。
皆親睦会が楽しみで仕方ないと言った様子だ。
そんな中、俺のデスクの電話が鳴った。
電話の相手は、漁港の近く鮮魚の卸売を営んでいる人で、得意先の一人でもある。
断るわけにはいかないな…
俺は上田と所長に事情を伝えると、他の社員よりも一足先に会社を飛び出した。
上田も同行すると言ったが、上田の名前で店の予約がしてあるからと断った。
時間には遅れるが、仕方ない。
俺は大急ぎで用事を済ませ、商店街へと向かった。
流石に休日を前にした週末ということもあって、普段よりは擦れ違う人の数も多い。
勿論、予約済みのあの店の前にも、空き待ちの客だろうか…、人並みが出来ている。
俺はその人並みを掻き分け、店のドアを開けた。
店内は超が付く程の満員で…
俺の姿に気付いた店員が、威勢の良い声で俺を出迎えてくれた。
つか、この雰囲気といい、店の造りといい、どこかで見た記憶が…
ただそれがいつの事だったのか、どこだったのかが思い出せず、俺は店員に案内されるまま、上田達社員が待つ座敷席に上がった。
「遅くなって済まないね…」
頭を下げ、上がり端の席に腰を下ろした俺の前に、すかさず手拭き用のおしぼりと、口取りの小鉢が差し出された。
「しょ…さん…?」
聞き覚えのある声と共に…
『passionato…』ー完ー